耳より!SPかわら版

コラム

第4回:就業規則の効力とその役割

"1.就業規則の役割 就業規則は、職場における服務規律や労働時間、賃金等の労働条件等を包括的に規定しているものです。労働契約は個別合意を原則としますが、就業規則による包括的同意により成立するものと考えられています。これは就業規則が労働契約の内容そのものになるということです。たとえ面接時に提示した労働条件の内容が詳細性を欠いたとしても、労働契約時に労働者が就業規則の内容に明確に同意していない、もしくはその内容を知っていないとしても、労働契約の内容として効力をもちます(電電公社帯広局事件 昭和61年3月13日最高裁第一小法廷)。 例えば、開業医の方が看護師さんや事務職員さんと労働契約を結ぶ場合に、このような場面が想定されます。就業規則を適切に作成することが、労使間のトラブルを未然に回避することができ、また実際にトラブルが起こったときに対処することができるなど、計り知れないほどの効力があります。 就業規則の効力については、従来は判例法理に委ねられていましたが、平成20年3月に施行された労働契約法により明文化されました。 (労働契約法第7条) 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りではない。 (労働契約法第12条)  就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効とする。この場合において、無効となった部分は就業規則で定める基準による。 2.就業規則の作成及び届出義務 就業規則は、事業場を単位として常時10人以上の労働者を使用する使用者に作成及び届出義務があります(労働基準法第89条)。たとえパートタイマー等の臨時従業員であっても、それらを含めて人数を計算しなければなりません。 ここにいう「事業場」とは、場所的に分散しているものは別々の事業場として捉えることが原則です。ただし、同一場所であっても、業務内容が著しく異なり、労務管理がそれぞれ独立しているといった場合などは別々の事業場として捉え、また場所的に分散していても、著しく小規模の事業場であって独立性のないものは、直近上位の事業場等に一括して考えます。医療法人で数か所に事業場が存在する場合、 事業場単位で10人以上の労働者を使用しているかどうかで作成及び届出義務者であるかを判断します。 3.意見書の添付 就業規則を届け出るときは意見書を添付しなければなりません。この意見書は、「当該事業場において、労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合(以下「過半数組合」という)、ない場合は労働者の過半数を代表する者(以下「過半数代表労働者」という)」の意見でなければなりません。たとえ労働組合があったとしても、過半数に達していない場合は、過半数代表労働者を選出しなければなりません。 書類イメージ 4.就業規則の周知義務  使用者には、法令等の要旨、就業規則、労使協定等を労働者に周知する義務があります。周知の方法は次のとおり定められています(労働基準法第106条、労働基準法規則第52条の2)。 ①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること。 ②書面を労働者に交付すること。 ③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。  ここにある「作業場」とは、「事業場」とは異なり、「事業場内において、密接な関連の下に行われている個々の現場をいい、主として建物別等によって判定する(昭和23.4.5基発535号)」ことになっています。  なお、最高裁は「就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、適用をうける事業場の労働者への周知手続が採られていることを要する。」(フジ興産事件 平成15年10月10日最高裁第2小法廷)として周知義務違反の就業規則の効力を否定しています。 "

2015-02-06

特定社会保険労務士 朝比奈 睦明 先生